#58 シャングリラ / Acid Black Cherry

愛するもの奪われても

希望や夢壊れても

それでも今君は生きてる

わかるかい?

                  シャングリラ / Acid Black Cherry

 

2011年にリリースされたAcid Black Cherryの12thシングル表題曲。

Janne Da Arc時代から激しいロック曲が多い中、

本作は非常にポップス色が強く、他の曲とは少し違う雰囲気を放つ楽曲である。

この曲も彼のキーの高い声が活かされており、オーケストラもバックにつける等、

とても聞き応えのある1曲となっている。

 

東日本大震災からもう8年。

今も悲しみを抱えた人々が日々を生活している。

電車が止まって困った程度の私の生活には、そこまで大きな影響を与えなかったが、

急いで家に戻ってニュースで見たリアルタイムの津波の映像はやはり衝撃的で、

今でも「これは本当にやばい」と思った記憶が鮮明に残っている。

 

愛するものが奪われて、希望や夢が壊れたあの日。

生きる道を用意されたあなたは、今何を思って生きているのだろうか。

目の前でさらわれていった大切な人。

連れて行くことが出来なかったあの人。

子供の頃から過ごした思い出の家や町。

何もかも無くなっても、命だけが残ったら。

 

彼のメッセージは、映像やニュースを見て、

そんな経験をしてしまった想像をすることしか出来ないような私たちには、

とても素敵なメッセージに映る。

でも、東北であの日地獄を見た人々の心には、どう映るのだろうか。

 

この曲の歌詞には、震災で特に被害が大きかった宮城、岩手、福島の3県の名前が、

歌詞の中に隠れている。

とても粋なことをするなと、当時思ったものだ。

私は音楽が大好きで、歌はリラックスさせてくれるしストレス発散にもなる。

でもそんな計り知れない悲しみを抱いている人にとって、

音楽はどの程度の存在なのだろうかと、たまに考える。

所詮気休めなのか。綺麗事を言っているだけで耳障りなのか。

 

その場でその経験をしていない人にとって、

経験者の気持ちを真の意味で理解するなんて不可能であるし、

出来ることなんてないのかもしれない。

何もできない一般人なんかより曲を発信できるだけよほど立派だと思うし、

誰か一人にでもそのメッセージが突き刺さっていたら、

絶望の中にいた誰かに生きようという希望を与えるきっかけを作っていたら、

そんな素晴らしいことなんてないと、私のような何もできない人間は思う。

 

何があったって、命ある限り生きていかなければならない。

あの日、この世を去ることになった人々も、

それを背負って生きていかなければならなくなった人々も、

穏やかな気持ちで眠れる日が、いつの日か、来ますように。

#57 明日の歌 / aiko

明日が来ないなんて思った事が無かった

いつでも初めては痛くて苦しくなるんだね

これはあなたの歌 嫌なあなたの歌

誰かが鼻歌であの雲の向こうまで

笑い飛ばしてくれますように

                    明日の歌 / aiko

 

2014年にリリースされたaikoの11thアルバム、

泡のような愛だった」収録のリード楽曲。

ベテランでキャリアも長いが、未だに首位を獲得することが出来る、

息の長いアーティストのひとりで、本作もオリコン1位を獲得している。

どの世代にも共感できる歌詞や衰えない歌唱力も魅力のひとつである。

 

いつでも初めては痛くて苦しくなるんだね。

この曲の中で最も印象的で、記憶に刻まれた言葉である。

初恋なんてとっくに終えているし、人に振られることだって、

振ることだって、この歳になれば一通り経験している。

そんな時、いつだって胸が痛く苦しくなったことを、思い出させてくれる。

そして、少なくとも自分が味わったそんな苦しみを、

きっと誰かにも与えてしまっている。

 

辛い過去を持つ人はたくさんいる。

私の想像の出来るような苦しみも、誰にも理解されないくらい壮絶な悲しみも、

知らないだけで色々な人の心の中に眠っている。

今、目の前で一緒に笑って話している人だって、

自分が知るもっと前に、絶壁の苦しみの壁を乗り越えていて、

今があったりするのかもしれない。

 

自分の身近な人が、実はとても深い悲しみを抱いていて、

それを知っても何も力になれない時、こんなに苦しいものかと思った事がある。

そしてそんな人が気持ちをぶつけて来てくれて、それには応えられない自分が居て。

でも、それで突き返したりなんかできない。あなたは私に必要な人だから。

これからも仲良くしていきたい、大切な人だから。

中途半端に応えてしまったことで、その人の気持ちを引き留め、

諦めさせることができず、余計に苦しい気持ちにさせてしまう。

その人の笑いながら流す優しい涙を見て、そんな気持ちを知って胸を痛めた。

そう、まさにこの歌詞のような気持ちを、自分が感じるのではなく、

相手に感じさせていると気付き、胸が苦しくなったのだ。

 

あなたは私の思い出の中に確かに居て、

同じ思い出でもあなたの中ではそれが光り輝く特別なものになっていて、

それを同じように特別な光として共有してあげることが出来なくて。

「好き」と一言で言うことができるのに、

何故その裏にある気持ちはこんなにも交わることが出来ないのだろうか。

違う道を通っているなんて、同じ場所に辿り着けないなんて。

 

自分の気持ちのほうが強くて、それが叶わない痛みなら耐えることが出来る。

でも、相手の気持ちのほうが大きくて、それには応えられなくて、

でもあなたとは縁を切ったりなんて出来なくて、人生に必要な人で。

そんな扱いをしてしまったら、あなたは辛く苦しくて。

それでもいい。

そう言われた。

それでもいいなら、友達でいられるのだろうか。

それでも?

本当はもっと、望んでいる。

 

明日が来ないなんて思った事が無かった。

あの日から、あなたの気持ちを知ったあの時から、

それまでの純粋に笑い合っていた二人に戻ることは無い。

こんな私の呪縛からいつか離れて、本当の幸せを手にしてくれるだろうか。

私が目くらましになることで、そこに居るあなたを幸せに出来る誰かに、

あなたが気付くことが出来ないかもしれない。

私よりも好きだと思う人に、ちゃんと出会ってくれるだろうか。

その時また仲の良い友達として、笑い合うことができるだろうか。

 

今もまだ、答えを出せないでいる。

#56 ハナウタ / [ALEXANDROS]×最果タヒ

きみに触れるたび満ちたむなしさは

愛に変わらずに溶けて消えてゆく

いつか、孤独のまま愛を許すこと

きみのさみしさをぼくは愛せるか

ひかりのなかに恋をしてる

孤独はきっと、そういうもの

愛が、とけだすように揺れる、ぼくだけの朝

       ハナウタ / [ALEXANDROS]×最果タヒ(作詞:最果タヒ

 

2018年にリリースされた、

[ALEXANDROS]の16thシングル「KABUTO」に収録されたカップリング曲。

自身で楽曲を作成している彼らが外部から詞を提供してもらうのは初めてのことで、

小説家の最果タヒによる作詞として注目された。

また、編曲は小林武史が担当しており、

流れるように滑らかなリズムと言葉が絶妙な、ミディアムナンバーとなっている。

 

何かのきっかけで独りきりの孤独を抱えた人間は、

人を愛すことを畏れる。

裏切られることを知っているからこそ、人間を信じず、心を開こうとしない。

心が折れそうになっても、いつかは全てが消えると、頭の中で繰り返す。

 

眩しい世界は苦手だ。

光に目を背けたくなる。

それでも、心のどこかで憧れはある。

誰かと笑顔で街を歩き、それなりの毎日を生きる人間に、

なることはできないのだろうか。

 

諦めている人間は意外とたくさんいる。

でも、誰も皆諦める前に諦めていなかった自分が過去にいたはずである。

その時の記憶が蘇って、もしくは希望を知らない世界を生きていても、

生きていれば誰かの優しさに触れる日が必ず来る。

その度にまた頭には、いつか全て消えるのだと忠告が入る。

触れた優しさに愛を抱くことができないのだ。

 

私は何かとてつもなく暗い過去を持っているわけではない。

でも子供の頃から、嫌われるのを恐れ、いじめのターゲットになるのを恐れ、

自我を押し殺して生きている子供だった。

やりたいことをやりたいと言わず、やろうと言われたことをやる。

食べたいものを食べたいと言わず、食べたい人にそれを譲る。

誰にも嫌われなかったけれど、家を出れば孤独だった。

 

作り上げられた「自我を押し殺す自我」は、

大人になった今でも自分の軸として組み込まれてしまっている。

「欲」が人より少なくなってしまったのだ。

近くにいる誰かの欲が満たせれば、自分が本当に嫌なことでなければ、

何でも受け入れられるのだ。

好きになってくれた人を好きになった。

親友だと言ってくれる人を親友にした。

やりたい仕事などなく、必要とされる場所で上司が必要とする仕事を全うした。

 

そして今、自我を押し殺した孤独な心は迷っている。

我侭すぎず嫌味もない、自分の欲より優先しても苦しくない、

何年も前から自分を大切にし続けてきてくれた恋人と、

私と似たような感覚と、それでも自我を通そうとして辛い経験をした過去を持ち、

私の自制した欲を感じ取り、吸い出した上で受け止めてくれる新しく出会った人。

前者を選べば、

「誰かと笑顔で街を歩き、それなりの毎日を生きる人間」になることができる。

後者を選べば、

今よりも自分らしくいれる代わりに、

ひっそりと、嘘を重ねながら陽の当たらない場所を選んで生きていくことになる。

 

闇を抱えている人間は、辛さを知っているが故に、

似たような苦しみを味わっている人に手を伸ばそうとする。

そんなことをしてもきっと、孤独は消えない。

その孤独を抱えたまま、誰かに愛を捧ぐことは出来るのだろうか。

誰かが隣にいても、壁が厚い分遠くに感じてしまう、付き合っているのにまるで、

好きな人に好きと言えないもどかしさのよう。

ひかりのなかに恋をしている。

孤独はきっと、そういうもの。

#55 Water Me / BONNIE PINK

なぜだろう

なぜこんなにも愛する気持ちが

時には過ちで

時には醜くて

時には情けなくて

                   Water Me / BONNIE PINK

 

2007年にリリースされたBONNIE PINKの23rdシングル表題曲。

A Perfect Skyで再ブレイクして以降にリリースされた楽曲で、

花の気持ちが言葉になっている歌詞が印象的な珠玉のバラード曲である。

 

愛は、人間に最も必要なものであり、人間を最も狂わせるものである。

ただ恋愛をして結婚をする、いわゆる普通の愛だけじゃない。

悲しい愛や苦しい愛がこの世には溢れている。

それは時に抱いてはいけない過ちの愛であり、

醜く翻弄される愛であり、情けなどかけられぬ禁断の愛であったりする。

 

浮気や不倫。

この世の中の至る所に蔓延っているであろう過ちは、

時に人を狂わせる。

純粋に愛しているのに、相手が誰かのパートナーであるが故に、

冷たい視線を浴びてしまう。

恋愛とは違う、身体の関係だけを持つ者だっている。

 

世間的には受け入れられつつある同性愛。

肯定的に受け入れているつもりになっている世間にうんざりしていることだろう。

ドラマやアニメなどで少しずつ存在がメジャーになっているだけで、

現実の世界では口に出来ずに苦しんでいたり、

好きになった相手が同性愛者でなければ叶わぬ恋に胸を痛め、

性同一性障害のように心と身体の不一致に苦しむ人だっている。

 

今まで普通に恋愛して生きてきた人にだって、

何かのきっかけでそれは訪れる。

人間、誰しも経験することなのかもしれない。

恋人がいるのに他の人にときめいてしまったり、

心を奪われてその先へ進んでしまったり、

迫られて体の関係を持ってしまったり、

恋愛感情を持たずに性の関係として遊んでしまったり。

 

恋愛は、本当に美しいものなのだろうか。

愛するとは、いったい何なのだろうか。

大切にしたいという気持ちと、性欲を満たしたいという気持ちと、

幸せにしたい、大好きだという気持ち。

本当にひとりの人にしか向けてはいけないものなのだろうか。

 

花は、与えられないと生きてはいけない。

私を見て、水をちょうだい。

毎日同じ花に水をやっている人間は、

枯れそうになっている花を見たら、そこにもきっと水をやる。

水をもらったことがある、愛を知っている人は、

水を、愛を求めている人にきっと優しくなれるし、手を伸ばしてしまう。

愛する気持ちなんてきっとそんなものだ。

過ちを犯す種であり、醜く愚かな部分を露にする種であり、

情けない程に人を狂わせる種なのである。

#54 桔梗が丘 / 平井堅

鍵をかけたドア越しにこぼれる

あなたの泣き声をただ聞いてた

忘れないで何かに勝つときは

負ける人の涙があることを いつでも

正直言うと私だって

胸を張れるような大人じゃなくて

声を上げて苛立ちをぶつける夜もあった

本当にごめんね

                   桔梗が丘 / 平井堅

 

2013年にリリースされた平井堅の配信限定シングル曲。

本人の故郷の地を曲名にし、母へ向けた感謝の言葉が綴られている。

優しいメロディや伴奏と平井堅のファルセットが織り成す、

心温まるミディアムバラードである。

 

親は、子供の前で泣こうとしない。

子供を支えていく決意の現われなのか。

不安にさせまいと必死なのか。

私の親も、子供の前で簡単に泣くような親ではなかった。

 

父は家族から感謝の言葉を掛けられなくても、毎日会社に向かった。

自分の子供にも興味を示さず、かと言って休みの日を趣味に費やすでもなく、

彼の人生の楽しみは何なのだろう?

子供ながらにそう思っていた。

父が泣いた姿を見たのは、祖母、つまり父にとっての母親が亡くなった通夜、

たった一度きり。

 

母はパートをしながら同居していた祖母、母にとっての母親の介護を、

祖父と共に10年近く続けていた。

介護をしていた祖父のほうが急に弱り果て、先に亡くなってしまったが、

それでも母は私たち子供の前では涙を目に溜める程度だった。

しかし母は両親を亡くしてから涙もろくなった。

動物の死や親子の絆などのストーリーをテレビで見るとすすり泣くようになった。

祖父の思い出話を私にしながら声を震わせて涙を流した。

母の泣いた姿を見たのも、そんなものだ。

 

きっと本当は声に出して泣きたいくらいに悲しかったのに、

私の前では両親はそれをしなかった。

私も、祖父母が亡くなり、共に生活した家族を亡くす悲しみを知った時、

風呂場でシャワーを流しながら、シャワーの音に隠れて泣いたものだった。

悲しければ悲しめば良いのに、肩を寄せ合えば良いのに、

互いにそれが出来ずどこかで強がっていた。

親子とは不思議なものだ。

近いのに、遠く感じることもある。

 

そしていつの間にか立場は逆転してしまう。

小さい頃は親を必要とするのに、大人になると親元を離れ、

親は子供の世話をしていたはずなのに、年老いて今度は自分が介護を必要とする。

子供はいくつになっても敏感で、

白髪が増えたり、髪の毛が薄くなったり、痩せてしまったり、

親の衰えにいち早く気づくのに、認められなくて目を逸らす。

うちの親に限って、なんてどこかで思っている。

 

いつかあなたが、空を翔く日が来ても。

この歌詞は、子育てに開放され自由の身となった親のことを言っているのか、

亡くなってしまう親を歌っているのか。

いずれにしても、言葉では恥ずかしくてなかなか伝えられない代わりに、

いつでも心を通わせることが出来る環境を作っておいてあげることは、

立派な親孝行なのだと思う。

定期的に親には顔を見せよう。

どんな生活を送っているのか話してあげよう。

きっとそれだけで親は喜び、また子供のいないところで密かに涙を流す。

互いに思いやる、素敵な関係なのである。

#53 不協和音 / 欅坂46

不協和音で既成概念を壊せ!

みんな揃って同じ意見だけではおかしいだろう

意志を貫け!

ここで主張を曲げたら生きてる価値ない

欺きたいなら僕を抹殺してから行け!

ああ 調和だけじゃ危険だ

ああ まさか自由はいけないことか

人はそれぞれバラバラだ

何か乱すことで気づくもっと新しい世界

                 不協和音 / 欅坂46(作詞:秋元康

 

2017年にリリースされた欅坂46の4thシングル表題曲。

秋元康プロデュースのアイドルグループながら、

激しいサウンドとダンスにストレートで生々しい歌詞の曲を歌う、

他のアイドルグループに比べると異色のグループである。

 

子供の頃から、私は周りを見て意見や行動を決める人間だ。

あの子は何をしてあげれば喜んでくれて、

あの子には何を言ってあげれば自分を嫌いにならないでいてくれて、

親や先生、大人には迷惑を掛けずに言うことを聞いておくのが一番だと、

そんなことを考えて生きてきた。

だから、大人になった今でも我を通すのは苦手だし、

心を許した相手にだって、したいこと、行きたいところ、

自分の欲を先にひけらかすことはない。

 

そんな自分はつまらない人間だと思っている。

本当に戻れなくなる前に、まだ若い年齢と思われている今のうちに、

やりたいことを見つけたり、なりたいものになろうとすべきなんだろうと、

そんなことを心の中で思いながらも、普通の毎日を坦々とこなしている。

きっとどこかでリスクを恐れて、平凡な毎日を手放すのが恐くて、

今の生き方から逃げることが出来ないでいる。

 

勿体無いんだ。

親の言うことを聞いてそれなりに勉強をして、

学校に通って、良い会社に入って、友人や恋人にも恵まれて。

何十年と我慢したからこそ得られたものを、失うことが。

恐いんだ。

心の声を抑えて「正しい」とされるレールを選択して過ごしてきた時間を、

自分で否定してしまうことが。

 

だから、欅坂46のような若い世代の歌手が、若い世代に向けて訴えかけるその言葉が、

親の囲いの中で、学校という狭い世界で生きる同世代の人々に、

届いてくれていたら良いなと切に願う。

大人になって気づくのだ。

仲間はずれにされるのを畏れて、周りに同調ばかりして、

自分を押し殺していたことの空しさを。

人はみんな違って当たり前なのに、

違うことに指を差されることが恥ずかしいことだと思っていたことの愚かさを。

 

でも、その世界しか知らない若い世代にとって、現実に不協和音を響かせることに、

どれ程勇気が必要で、その後どれ程強くあり続けなければならないか。

きっと難しい。

強い心を持って発したとしても、冷ややかな目やいじめという現実に、

押しつぶされてしまう可能性のほうが往々にしてあるのだ。

だから、きっと私のような大人がたくさん世に溢れていく。

 

綺麗事を言うのは簡単。それを書くのも歌うのも簡単。

それを受けて実際に行動するためのエネルギーがどれ程必要なのか、

行動できなかった私には計り知れない。

でも、もし何か少しでも自分の世界を変えることが出来た人が居てくれたら。

人生捨てたもんじゃないって思わせてくれた何かがあったなら。

私が子供の頃もらうことが出来なかったその勇気を、

誰かに与えることが出来ていたのなら、

アイドルグループだって捨てたもんじゃない。

学生時代に欲しかった言葉を、学生時代に聞けていたら、

何か心動いたかもしれないな、なんて、

この曲を聞くとぼんやり考えたりしてしまう。

#52 遥か / GReeeeN

「まっすぐにやれ よそ見はするな

へたくそでいい」父の笑顔と

「信じる事は簡単な事

疑うよりも気持ちがいいね」母の涙

さようなら

また会える日まで不安と期待を背負って

必ず夢を叶えて笑顔で帰るために

                       遥か / GReeeeN

 

2009年にリリースされたGReeeeNの11thシングル表題曲。

2007年のデビュー以来、素顔がわかる形でのメディア露出はなく、

そのスタイルは2019年現在まで一貫している。

一時よりは落ち着いたものの、露出がないながら今もなお人気を博しており、

ハイトーンボイスと低音ボイスの音域の広い楽曲を歌いこなすのも魅力である。

 

本曲は夢を掴む為に実家を出て新しい世界へ飛び込んでいく若者を主役にした楽曲。

そこへ向かう途中に父や母から言われた言葉を思い出したり、

友人から渡された手紙を読んで思いにふけているシーンが描かれていて、

曲の始めから終わりまでの詞の世界観が非常に読み取りやすく、

若者に指示されている理由のひとつでもある。

 

親元を離れて初めて親のありがたみがわかる、と言う言葉をよく耳にする。

学生時代、一度も親元を離れたことがなかった私は、

「いざその時になれば、なんとかなるもんでしょ」としか思っていなかった。

実際に親元を出たのは社会人になり、転職をしたタイミングであったため、

ある程度大人になってからの独り立ちだったこともあり、お金にも困らなかったため、

結果、なんとかなるものではあった。

しかしながら、寮に入ったり大学入学のタイミングであったり、

学生時代に実家を出ていたらと思うと、

夢を追いかけてひとりで別の世界に飛び出す若者は、

なんて強いパワーを持っているのだと感心する。

 

辛くなったとき。寂しくなったとき。

誰の言葉を思い出すだろうか。

何か言葉が欲しくなったら、誰に連絡を取るだろうか。

あの時、あの言葉があったから。

きっとそんな言葉を胸に刻み込んでいる人はたくさんいることだろう。

 

親は、社会人になった自分がこれまで経験してきたような世界を乗り越えながら、

自分を育ててくれたのだと思うと、自分が親になったときにも、

今目の前を見ている子供に、

その先に広がる未来を見据えた言葉を投げかけてしまうかもしれない。

それをぐっとこらえて、子供の背中を見送る親の気持ち。

辛いことがあの子に降りかかりませんように。

平凡でいいから、幸せな人生を遅れますように。

きっと多くは望まず、そんなようなことを願っていたのではないだろうか。

 

へたくそだっていいから、まっすぐに生きろ。

人を疑うよりも信じてみなさい。

この曲の主人公に掛けられた言葉は、しっかりと胸に届き、

新しい世界に「いざ行こう」という歌詞でエンディングを迎える。

励ましの言葉は人を強くする。

ひねくれず、ネガティブな言葉よりもポジティブな言葉を掛けてあげられる、

大人でありたい。