#19 Last minute / 浜崎あゆみ

 

最後の笑顔なんて覚えていたくないわ

眠ってるフリをしてるうちに消えて

愛されたいと願うあたしが

誰のことも愛せないことにあなたはきっと

気付いたのね

                      Last minute / 浜崎あゆみ 

 

2014年にリリースされた浜崎あゆみの53rdシングル、

Zutto... / Last minute / Walk」収録曲。

ここ数年のリリース曲の中では最も人気を集めている曲ではないだろうか。

バラード調の静かなメロディからいきなりロックテイストに切り替わる、

メリハリを付けた曲調を歌いこなす彼女の王道曲の中のひとつ。

「Free & Easy」や「progress」などの過去の名曲を彷彿とさせる。

 

この曲を初めて聴いたとき、この歌詞が強烈に胸に刺さったのを覚えている。

愛されたいと願うあたしが、誰のことも愛せないことにあなたは気付いた。

自分が心の中で密かに抱いていた不安を、

意図もせず口にさせられたかのような衝撃を受けた。

 

捨てられることや見放されることを危惧し、

失うことを恐れて一定のところから先へ進めない人間は多い。

特に恋愛は、もしも振られたら、浮気をされたら、

自分が手放される将来を不安視して全てをさらけ出せない。

リスクを恐れているのである。

 

ここまで尽くしたんだから同じくらい尽くしてくれないと。

そう思ってしまうのは、現代の若者の特徴なのだろうか。

「無償の愛」を縁遠いものと感じてしまうのだ。

本当は、心から愛している人の笑顔のために何かしてあげたいと思うもの。

自分のことを好きだと言ってくれている人のことですら、

それでももし別れることになったら、と、

走る心にブレーキをかけるのである。

 

そんな大きな大きな心の問題に気付かれてしまい、

振られてしまったこの曲中の主人公。

なんて切なく苦しい曲なのだろうと、いつ聴いても思う。

そしてその辛さややり場のない気持ちが、

ロックテイストの激しい伴奏と急にしんとするピアノ演奏によって描かれている。

もがき苦しみ、終わっていく姿がしっかりと表現された曲だと私は思う。

 

愛されたいなら愛さないといけない。そうではない。

心から愛すから、心から愛される。

もどかしい気持ちを抱えている人間は、今の時代恐らくたくさん存在するだろう。

そのことに気付いていても、どうしようも出来ないのだ。