#29 27 / 西野カナ

突然の結婚ラッシュ

一抜け、二抜け、ついにあの子まで

急にちょっと焦ってみたり

だけどまぁいっかってなったり

転職サイトを眺めてみたり

これでも一応将来のことは考えているの

そんなに心配されるほどじゃない

                         27 / 西野カナ

 

2017年にリリースされた西野カナの30thシングル「パッ」収録曲。

恋愛歌ばかりを歌うイメージが強い彼女であるが、

カップリングやアルバム曲では上司や仕事に対する愚痴であったり、

血液型に関する歌詞であったり、誰の日常にも転がっているような、

メインの曲のテーマにはなりにくいが「あぁわかる」と思わせる、

身近な歌詞が多くのリスナーの共感を得ている。この曲もそのひとつと考える。

 

27歳。まだ20代、若いけれどもうすぐ30歳。

社会人としては後輩や早ければ部下も出来て、仕事もバリバリこなせるようになる。

それでも40代、50 代の人から見ればまだまだ若くて可愛い部下。

自分もまだ若いと思う気持ちと、そろそろやばいと思う気持ちが入り混じる、

大人と子供の狭間の10代後半とはまたタイプの違う、非常にデリケートな年齢。

それでも10代の頃とは違い、学生や社会人を経て色々な経験をしてきたからこそ、

どこか腰が据わっていて落ち着きもあり、少しの諦めにも慣れてきている年頃。

まだ若いと扱われることもあれば、

いくつだと思ってるんだと言われることもしばしば。

 

2014年にリリースされた「25」の歌詞と比べても、

「27」の主人公の方がどこか落ち着きがある。

20代後半に突入し、周囲の色々な変化や自分の身体の変化に焦りを感じて、

生き急いでいる「25」とは違い、30代が見えてきて逃れられないと悟ったのか、

私は私だし、と言わんばかりの流されない人格が形成されつつある。

昔よりも少しだけ、未来を考えることが出来ている証拠だ。

 

結婚したり転職したり、ライフイベントは20代にたくさん訪れることが多い。

自分ももうそんな歳になったのかと、寂しい気持ちがあるのも確か。

20代が終わるカウントダウンが始まっていることに、

今から焦ったって、と言う気持ちと、何か出来ないか、という気持ちが入り混じる。

まだ甘えていたいと思うことと、しっかりしなきゃ、家庭を持とうと思う気持ち。

葛藤がない年代などないのだけれど、きっと同年代の人々はこの曲にどこか共感し、

耳を傾けるのではないだろうか。

 

25、27と来たら、彼女が描く「30」の世界も是非読んでみたい。

彼女の歌詞は、この人にしか書けないだろうと思うような、

飛びぬけた表現や例えが書かれているわけではない。

それを否定する言葉も耳にしたことはあるが、

誰もがそうだよなと思う当たり前のことを当たり前にあえて書いてくれている、

そんなアーティストがいても良いのではないかと、私は思う。