#62 点描の唄(feat.井上苑子) / Mrs. GREEN APPLE

いつまでも いつまでも

続いて欲しいと願っている

手を取ることは出来ずとも

過ぎていく現在に抱きしめられている

私の 僕の

時間が止まればいいのに

  点描の唄(feat.井上苑子) / Mrs. GREEN APPLE(作詞:大森元貴

 

2018年にリリースされたMrs. GREEN APPLEの7thシングル、

「青と夏」に収録されているカップリング曲。

ポップなバンドのイメージを覆す、繊細で美しいバラードナンバーである。

もともとヴォーカルの大森は、様々な楽曲でファルセットを駆使しており、

バンドならではのバラード曲も多数リリースしているが、

井上苑子とのコラボレーションにより、

過去の楽曲よりも少し力の抜けた、繊細さが特徴的である。

 

ひと夏の恋をテーマにした映画のために書き下ろされたであろう本作は、

終わりが決まっている限られた時間を愛しい人と過ごす内容となっている。

単なる叶わぬ恋を歌うのではなく、互いに想い合っていることを知った上で、

夏が終わると同時に離れ離れになってしまう現実に打ちひしがれている、

そんな歌詞が非常に甘酸っぱく、心地良い。

 

夏休みの間、帰省した先で出逢った恋、であればとても可愛らしい。

大人になって、想い合っていても終わりを見据えている恋と言われると、

浮気や不倫がすぐに頭に浮かんでしまう。

それでも大人たちは、そんな過ちを繰り返して生きている。

恐らく、半数以上が何かしら後ろめたい気持ちを抱いた経験を、

しているのではないだろうか。

 

いつか終わらせなければ。

それはつまり、好きな人に自分から「さよなら」を告げるということ。

そんな辛く苦しい現実が、時間と共に迫ってくる。

もしくは、その人と共に生きる道を選び、

今まで立っていた道から外れていくのか。

それもそれで、引き換えに大事なものをたくさん失う。

 

私の、僕の、時間が止まればいいのに。

とても単純で、ありきたりな言葉のはずなのに、

何故だかとても心に響くものがあった。

時間が止まればいいのに、なんて子供じみた気持ちを、

すっかり忘れていた。

夢中になって初めて、頭で思いつくのではなく心から思うのだ。

あの言葉の通りの気持ちが、自分の中にもまだあったなんて。

そんなことにも驚いたものだった。

 

「手を取ることは出来ずとも」という歌詞が、

あなたのことは選ぶことが出来ないけれど、という気持ちが描かれていて、

胸が締め付けられる。

この気持ちを相手が知ったら、どんなに悲しむだろうか。

相手は自分を運命の人だと思っているかもしれない。

もしくはそれに互いが気づいているのだとしたら、

こんなに切なく苦しいことはない。

過ぎていく現在に、抱きしめられている時間に幸福を感じ、

その先の別れが訪れるのを先延ばしに出来ないかと、

足掻くことしか出来ないのだ。

 

世の中、常識なんてものがあるが故に、

ひとりの人と愛し合い結婚するのが当たり前だし、

男は女、女は男に恋をするのが当たり前、

そんなものさしが人々の常識としてインプットされている。

世間はダイバーシティだの何だのと取り上げるが、

マイノリティなんて言葉を使う時点で差別化しているし、

実際に少数派の人間は肩身の狭い思いで毎日を生きていることだろう。

誰にも相談できず、苦しんでいる人だっているに違いない。

 

叶わぬ恋だったとしても、刹那的な関係だったとしても、

時間が止まって欲しいと思うほど愛おしい人に出逢えたのなら、

それで人生幸せだ。

その先にどんな別れが待っていても、

人を愛することができた、愛される人間であった、

そのことが大事なのだ。

どんな結末も、互いに受け止めなければならない。

それが解ってるから、願う。

終わるな、夏よ終わるな、と。