#24 グロテスク feat. 安室奈美恵 / 平井堅

 

アイツの幸せ喜べますか?

あのコのもの欲しがってませんか?

果たして自分は特別ですか?

                グロテスク feat. 安室奈美恵 / 平井堅

 

2014年にリリースされた平井堅の36thシングル曲。

意外な組み合わせのコラボレーションということもあり、当時話題となった。

また、コラボ楽曲をシングルのA面として平井堅がリリースするのも、

異例のことであった。

スリリングなサウンドと二人の声のかけ合わせに疾走感が感じられる楽曲である。

 

平井堅の歌詞はダークな曲と心温まる曲と二極化することが多く、

暗い曲はとことん暗く、泥臭く血生臭い歌詞が光る曲が多い。

クールに歌い踊る安室奈美恵を相方に選んだこの曲は、

ダンスチューンではないものの、激しさや黒さが滲み出ており、

ビートを強く打たせることによって安室らしさも兼ね備えた曲に作り上げた。

 

人は生活に優越感を求めている。

アイツよりも先に結婚した、アイツよりも良い成績を残した、

あのコよりモテる、あのコより高いブランド品を身につけている。

そうして気持ちを高ぶらせ、下の人間を見てほくそ笑むのだ。

上には上がいることには都合よく目を逸らし、

自分が一番であることをひけらかして満足感を得ようとする。

でもこれは不出来な人間が持っている感情ではなく、

誰もが持っているもので、表に出ているか内に秘めているかの違いである。

 

出世したいと思っている人が、優秀な同僚に先を越されたとき、

素直におめでとう、お前はすごいやつだと言ってあげられるだろうか。

自分もそろそろ結婚しないと、と思っている人が、

果たして身近な友人の結婚の報告に心からおめでとうと言えるだろうか。

悔しい。何でアイツが。何で自分は認められない。

どこかでそんな闇が心に巣食うことを感じたことはないだろうか。

 

グロテスク。

とてつもないタイトルをつけたこの歌詞には、そんな心の醜さが描かれている。

「す」の一文字で「すいません」と予測変換される心無い指先の謝罪。

可愛い声と褒め称えてはいるが本当は笑い方が死ぬほど嫌い。

そんな歌詞には、自分の醜さを認めているもののさらけ出せず、

「グロテスクな自分 愛せますか?」と自問自答している。

自分は特別じゃない。でも特別でいたい。

特別でいるために人と比べ優劣をつけ、自分を上に持ち上げて優越感を感じる。

そんな心の醜さに気付いた時、あなたならどうする?

 

天邪鬼になるな。そんな自分は殺せ。素直になれ。

人間の真に近い部分をあらわにし言葉にした、応援歌なのだ。

苦い経験をするたびにずる賢くなっていく人間に、

言い訳を覚えた人間に、なったままでいてくれるな。

そんなメッセージが込められているのではないだろうか。

#23 Bitter & Sweet / RYTHEM

 

ミントガムの私も今は

あなたにとってはもう過去の味

無理にあがいて困らせてみても

余計にまずくなる

ブルーベリーガムのような甘さに惹かれないで

置いていかないで

だけど甘いあの娘 苦い私

答えはもう出てる

           Bitter & Sweet / RYTHEM(作詞:加藤有加利) 

 

2007年にリリースされたRYTHEMの初の配信シングル曲。

後に2008年にリリースされた3rdアルバム「23」に収録され音源化された。

彼女たちの歌声は透明感があり、ハモリはまるで同じ人の声を重ねているかのように、

呼吸までもがとても綺麗にリンクしている。

そんな中でもこの曲はソロパートが多い印象を受ける。

 

どう見たって勝ち目はないよな、なんてライバルのいる恋をしたことはないだろうか。

好きな彼に対して素っ気無い態度しかとれない自分はミントガム、

好きな彼に女性らしく可愛く甘えるライバルはブルーベリーガム。

そんな例えが非常に面白い歌詞となっている。

甘いあの娘、苦い私、答えはもう出てる。

サビの最後の歌詞がとても切なく、女心をくすぐる。

 

終盤までネガティブなミントガムの自分を、

ブルーベリーガムのあの娘への劣等感や対抗心を歌っているが、

最後の最後に歌詞が急に雰囲気を変えており、不思議な感覚で曲を終える。

「今年も変わらない日々が来ると思っていたのに、

変わってしまったのはもしかして、私なの?」

最初は何も思っていなかったのに、その人を好きになった。

変わらない日々が来ると思っていたのに、こんなに気持ちが乱れるなんて。

その変化を起こしたのは誰でもない、自分の気持ちの変化なのだと、

急に冷静な分析が入る。

彼女たちがこの曲で伝えたかった部分は、ここなのかもしれないとも考えられる。

 

恋が始まったら最後、なかなか気持ちは抑えることが出来ない。

あの子みたいにあの人の前で可愛く出来たらいいのに。

そんな主人公へ、彼が気持ちを向けるようなストーリーは、

ドラマの中だけなのだろうか。

そういう人にこそハッピーエンドが訪れて欲しいと思ってしまう。

ずる賢く生きるのは紛れもなくその人の生き方のスキル。

それでも、不器用な人に花が咲くことを望んでいる自分がいる。

 

ブルーベリーガムよりも、ミントガムを好むような男性に、

惹かれて欲しいし、そんな人を好きになって欲しい。

そんな恋を応援したいと思うし、叶ったときには祝福をしたい。

この曲を聴く時は、そんな甘く苦いシーンからのハッピーエンドを頭に浮かべている。

#22 東京シナリオ / UNISON SQUARE GARDEN

 

悲しいなら泣いたらいいし

楽しいなら笑えばいいし

難しく考えるのは良くないから

僕はこの形でいいや

    東京シナリオ / UNISON SQUARE GARDEN(作詞:田淵智也) 

 

2015年にリリースされたUNISON SQUARE GARDENの大ヒット10thシングル、

シュガーソングとビターステップ」のカップリング曲。

ベースの重低音が印象的なミディアムチューン。

具体的な地名も登場するところを見ると、実体験が描かれた歌詞だと思われる。

 

理想を追い求めたり、高みを目指す人間はたくさんいる。

しかし理想を手に入れられる人間は極僅かで、

才能のある人間にも勝ち抜くには並大抵の努力では叶わない。

多くの人間が優秀な人間と自分を比べ、その差に現実を見るのである。

 

そんな一喜一憂は人を成長させるのかもしれない。

それでも、苦しい道を進みたくはないし、出来る限りで生きていきたい。

これでも頑張っているんだ、と日々と戦っている人間は多いだろうし、

自分もそのうちの一人であると思う。

自分は自分だと、いつか何か吹っ切れれば、

気持ちは楽になるだろうし、生きる時間の中に余裕も生まれるだろう。

 

だから、楽しいときには笑って、悲しいときに泣いて、

自分の気持ちに素直に生きていきたい。

今あなたが歩いている場所のシナリオは、あなたにしか書き記せない。

難しく考えなくていいから、あなたらしく。

そんな風にポンと肩をたたいてくれるようなゆったりとした曲調と、

ヴォーカル斎藤の柔らかい歌声が印象的な楽曲である。

 

大きな夢なんて持たなくたっていい。

平凡な日常を大切にする毎日でいい。

実現できる範囲の、不器用で小さすぎる願いを、

ひとつひとつ叶えて小さな幸せに微笑むことが出来ればいい。

自分が描いた幸せのシナリオを進むことが、自分にとっての幸せ。

僕はこの形がいいや。

#21 誰かの願いが叶うころ / 宇多田ヒカル

 

誰かの願いが叶うころ

あの子が泣いてるよ

みんなの願いは同時には叶わない

               誰かの願いが叶うころ / 宇多田ヒカル 

 

2004年にリリースされた宇多田ヒカルの13thシングル曲。

全盛期のR&Bから曲の方向性に変化が現れた頃の曲で、曲名も日本語となっている。

14年も前の曲になるが、どちらかと言えば近年のヒット曲「花束を君に」や、

桜流し」などの曲に似た方向性の曲調となっている。

 

以前にも綴ったことがあるが、人生は良いことも悪いことも半分ずつだ、

と聞いたことがある。

「幸せだ」と思った瞬間は、目の前も、頭の中も、全てが輝いている。

毎日が楽しいと思っている人は、すべてのことを良く考える。

そんな時、必ず悲しんでいる人がどこかにいる。

今、大切な人が命を落として絶望の淵にいる人、

事業に失敗し金も尽きてどん底にいる人。

 

こんなことを考えてしまっては、心の底から幸せを感じて喜べなくなってしまうが、

自分の笑顔は誰かの悲しみの裏返しなのである。

誰かが不幸を感じているから、自分は幸せを感じている。

そしてその逆もそう。

自分が辛いと思っているときに、幸せを感じている人はたくさんいる。

しかし、それを頭の片隅にでも理解していれば、

今の幸せがどれほど大切なものなのか、ありがたいことなのか、

わかる気がしないだろうか。

幸と不幸の浮き沈みから一旦離れ、平凡の中にいることを、

幸せだと思う人がたくさんいるように。

 

みんなの願いは同時には叶わない。

誰かが受験に受かれば落ちた人がいるように、

離婚した人がいれば入籍した人がいるように、

世界は喜びと悲しみの無限ループで回っている。

自分が今どこにいようと、必ず逆の環境は人生に取り巻いてくる。

幸せなことの尊さに気付かずにいる人へ、その喜びの影に潜む摂理を、

この歌詞は訴えているように私は感じる。

#20 1 of 1 / SHINee

トキメク何度でも感覚Replay

似てるようで違うのさ

ふりだしfallin' fallin' for you

また始めからキミに恋しよう

        1 of 1 (Japanese Ver.) / SHINee(作詞:Sara  Sakurai)

 

2017年にリリースされたSHINeeの日本5thアルバム「FIVE」収録曲。

一定のテンポで流れ続ける弾むような伴奏が耳に残る特徴的な一曲。

K-POP色が強めなサウンドに乗せたりダンス押しの曲が多いK-POPアイドルだが、

彼らが歌う曲は少し力を抜いてフッと歌うような王道K-POPからは外した曲が多く、

キャッチーで一度聞いただけで覚えるような曲こそ少ないが、

独特の”らしさ”を持っているK-POPアイドルである。

 

長く付き合っていると、付き合い始めた頃のドキドキやワクワクを忘れ、

互いが空気のように当たり前の存在になってくると、トキメキを忘れていく。

それが恋であり結婚であり夫婦であると言えばそうなのかもしれないが、

人はいくつになっても恋をしていたい生き物でもある。

あの時は恥ずかしくて見せられなかった大きなあくびも今では目の前で平気でしたり、

うんうんと一所懸命に聞いていた話も今では話半分で聞いていたり。

それが普通で、もうときめかない、なんて言っている人をよそに、曲の主人公は

出逢った時の感覚とは微妙に違うが今でも相手のしぐさや言葉に心を躍らせている。

 

アイドルらしい恋愛ソングであるが、

この曲には彼らが歌うからこそリアリティが増す一部分がある。

「かけがえない」という意味 訳してみたら=「キミ」

ほとんどの日本人は「かけがえない」なんて言葉を辞書で調べたりはしない。

それくらい身近で、ストレートに伝わる言葉だからである。

韓国人である彼らがJapanese Ver.として日本人リスナーに向けて歌うからこそ、

歌詞に現実味を持たせ、本人に言われているかのように、

聞いている女性にトキメキを提供しているのである。

 

そんな彼らは今、芸能活動の、人生の分岐点に立たされている。

メンバーが自ら選んで、この世を去っていったのである。

残された4人はSHINeeとして活動していくことを決意している。

たった数ヶ月で隣にいた人を失った悲しみを抑え、

カメラの前で笑顔でいる彼らを見ると、貼り付けた仮面なのではないかと心配になる。

リスナーやファンに出来ることは何だろうか。

 

私は「鏡」であることではないかと思う。

ほんの数回過去にライブに足を運んだ程度の私はもとより、

彼らの悲しみや苦しみは誰にも計り知れない。

大丈夫かと声を掛けても、大丈夫なはずがないし、

彼らより先に泣いてしまえば、彼らが安心して泣く場所はそこにはなくなってしまう。

彼らが笑顔で歌っているときは、自分たちも笑顔でいれば良い。

彼らがメンバーを思って涙を流したら、一緒に涙を流せば良い。

芸能人と一般人という距離があっても、寄り添うことが出来るのは、

鏡になることなのではないだろうか。

 

4人の姿を見れば必ず5人の姿が頭に浮かぶであろう。

それでも、この先どんな結末を迎えようとも、後にも先にも紛れもなく、

1 of 1を聞いて、Everybodyのパフォーマンスを見て、

Sing Your Songを歌って、数々の楽しいという気持ちを

与えてくれた人はOne & Only

SHNeeだけなのである。

#19 Last minute / 浜崎あゆみ

 

最後の笑顔なんて覚えていたくないわ

眠ってるフリをしてるうちに消えて

愛されたいと願うあたしが

誰のことも愛せないことにあなたはきっと

気付いたのね

                      Last minute / 浜崎あゆみ 

 

2014年にリリースされた浜崎あゆみの53rdシングル、

Zutto... / Last minute / Walk」収録曲。

ここ数年のリリース曲の中では最も人気を集めている曲ではないだろうか。

バラード調の静かなメロディからいきなりロックテイストに切り替わる、

メリハリを付けた曲調を歌いこなす彼女の王道曲の中のひとつ。

「Free & Easy」や「progress」などの過去の名曲を彷彿とさせる。

 

この曲を初めて聴いたとき、この歌詞が強烈に胸に刺さったのを覚えている。

愛されたいと願うあたしが、誰のことも愛せないことにあなたは気付いた。

自分が心の中で密かに抱いていた不安を、

意図もせず口にさせられたかのような衝撃を受けた。

 

捨てられることや見放されることを危惧し、

失うことを恐れて一定のところから先へ進めない人間は多い。

特に恋愛は、もしも振られたら、浮気をされたら、

自分が手放される将来を不安視して全てをさらけ出せない。

リスクを恐れているのである。

 

ここまで尽くしたんだから同じくらい尽くしてくれないと。

そう思ってしまうのは、現代の若者の特徴なのだろうか。

「無償の愛」を縁遠いものと感じてしまうのだ。

本当は、心から愛している人の笑顔のために何かしてあげたいと思うもの。

自分のことを好きだと言ってくれている人のことですら、

それでももし別れることになったら、と、

走る心にブレーキをかけるのである。

 

そんな大きな大きな心の問題に気付かれてしまい、

振られてしまったこの曲中の主人公。

なんて切なく苦しい曲なのだろうと、いつ聴いても思う。

そしてその辛さややり場のない気持ちが、

ロックテイストの激しい伴奏と急にしんとするピアノ演奏によって描かれている。

もがき苦しみ、終わっていく姿がしっかりと表現された曲だと私は思う。

 

愛されたいなら愛さないといけない。そうではない。

心から愛すから、心から愛される。

もどかしい気持ちを抱えている人間は、今の時代恐らくたくさん存在するだろう。

そのことに気付いていても、どうしようも出来ないのだ。

#18 黄昏ロマンス / ポルノグラフィティ

 

いつの日か年老い

終わりを感じながら

公園のベンチで思い返してみる

君にとっての幸せがいったいどこにあったのか

ひとつくらいは増やせてあげられたかな

        黄昏ロマンス / ポルノグラフィティ(作詞:新藤晴一) 

 

2004年にリリースされたポルノグラフィティの16thシングル曲。

ストリングスなどを盛り込んだ心温まるミディアムバラードである。

当時年末番組でも複数回披露されており、

記憶に残っている人もいるのではないだろうか。

夕日をイメージしたであろう伴奏が放つ温かさに加えて、

語尾がしぼむような歌い方が哀愁をも漂わせている。

 

そんな哀愁を最も感じる歌詞がこの部分。

「終わりを感じながら」という一言が、

命の終わりを悟った人間の物思いに耽っている姿を連想させる。

 

人は真剣に人生を振り返ることはあまりしない。

ゆっくり過去を思い出す時間もなければ、

勉強のように定期的に復習して記憶に刻もうとすることもない。

誰かと話しているときはその人を連想する過去ばかりが浮かんでくるし、

そればかりか人生に起こったことの大半を記憶の奥底にしまっていて、

そう簡単に引き出しを開けることも出来なくなっている。

それが死を覚悟したとき、これまでの楽しかったことや悲しかったこと、

ありとあらゆる思い出が走馬灯のように浮かび上がってくる。

そんな時一番に思った、共に歩いてきた「君」へ。

私と生きて、幸せだっただろうか。

公園で空を眺めながら考えている老人の姿が目に浮かぶ。

 

人は何故他人と結婚するのだろう。

寂しさを紛らわすためか。生活を楽にするためか。血を繋ぐためか。

いや、理屈ではないのだろう。

しかし、一緒にいることが自然で、空気のようになくてはならない存在が出来て、

その素晴らしさやありがたさを日常の中に紛れて忘れてしまっている。

その時々は嬉しくて幸せなイベントを迎えて歓喜しているのに、

時間が流れて生きて来た道のりを振り返ると、

「あー、あの時は嬉しかったなぁ」なんて、ほっこりと思い返す程度になっている。

そうやって人は次へ次へと新しい刺激や喜びを求めて生きていく。

 

振り返ろう。

大切なあなたに、歳を取っても当時の気持ちを忘れないくらい、

飛び切りの喜びと笑顔を与えることは出来ているか。

確かめよう。

大切なあなたが、自分を選んでついて来てくれた理由を。

未来への期待も大切だが、過去を忘れてはならない。

二人が歳を取ってこの世を去るときに、

あなたと長い間生きてこられて良かったと、思えるように。