#56 ハナウタ / [ALEXANDROS]×最果タヒ
きみに触れるたび満ちたむなしさは
愛に変わらずに溶けて消えてゆく
いつか、孤独のまま愛を許すこと
きみのさみしさをぼくは愛せるか
ひかりのなかに恋をしてる
孤独はきっと、そういうもの
愛が、とけだすように揺れる、ぼくだけの朝
2018年にリリースされた、
[ALEXANDROS]の16thシングル「KABUTO」に収録されたカップリング曲。
自身で楽曲を作成している彼らが外部から詞を提供してもらうのは初めてのことで、
小説家の最果タヒによる作詞として注目された。
また、編曲は小林武史が担当しており、
流れるように滑らかなリズムと言葉が絶妙な、ミディアムナンバーとなっている。
何かのきっかけで独りきりの孤独を抱えた人間は、
人を愛すことを畏れる。
裏切られることを知っているからこそ、人間を信じず、心を開こうとしない。
心が折れそうになっても、いつかは全てが消えると、頭の中で繰り返す。
眩しい世界は苦手だ。
光に目を背けたくなる。
それでも、心のどこかで憧れはある。
誰かと笑顔で街を歩き、それなりの毎日を生きる人間に、
なることはできないのだろうか。
諦めている人間は意外とたくさんいる。
でも、誰も皆諦める前に諦めていなかった自分が過去にいたはずである。
その時の記憶が蘇って、もしくは希望を知らない世界を生きていても、
生きていれば誰かの優しさに触れる日が必ず来る。
その度にまた頭には、いつか全て消えるのだと忠告が入る。
触れた優しさに愛を抱くことができないのだ。
私は何かとてつもなく暗い過去を持っているわけではない。
でも子供の頃から、嫌われるのを恐れ、いじめのターゲットになるのを恐れ、
自我を押し殺して生きている子供だった。
やりたいことをやりたいと言わず、やろうと言われたことをやる。
食べたいものを食べたいと言わず、食べたい人にそれを譲る。
誰にも嫌われなかったけれど、家を出れば孤独だった。
作り上げられた「自我を押し殺す自我」は、
大人になった今でも自分の軸として組み込まれてしまっている。
「欲」が人より少なくなってしまったのだ。
近くにいる誰かの欲が満たせれば、自分が本当に嫌なことでなければ、
何でも受け入れられるのだ。
好きになってくれた人を好きになった。
親友だと言ってくれる人を親友にした。
やりたい仕事などなく、必要とされる場所で上司が必要とする仕事を全うした。
そして今、自我を押し殺した孤独な心は迷っている。
我侭すぎず嫌味もない、自分の欲より優先しても苦しくない、
何年も前から自分を大切にし続けてきてくれた恋人と、
私と似たような感覚と、それでも自我を通そうとして辛い経験をした過去を持ち、
私の自制した欲を感じ取り、吸い出した上で受け止めてくれる新しく出会った人。
前者を選べば、
「誰かと笑顔で街を歩き、それなりの毎日を生きる人間」になることができる。
後者を選べば、
今よりも自分らしくいれる代わりに、
ひっそりと、嘘を重ねながら陽の当たらない場所を選んで生きていくことになる。
闇を抱えている人間は、辛さを知っているが故に、
似たような苦しみを味わっている人に手を伸ばそうとする。
そんなことをしてもきっと、孤独は消えない。
その孤独を抱えたまま、誰かに愛を捧ぐことは出来るのだろうか。
誰かが隣にいても、壁が厚い分遠くに感じてしまう、付き合っているのにまるで、
好きな人に好きと言えないもどかしさのよう。
ひかりのなかに恋をしている。
孤独はきっと、そういうもの。